英語を話せる。仕事でも使える。でも、なぜか一発で通じないことがある——
そんな経験をお持ちの方に、脳科学の話を交えながら「発音」の本質をお伝えします。
Client Story
メーカーに勤めるNさん。海外駐在中のため、日々の業務はほぼすべて英語。語彙も文法も申し分ないのに、「日本語アクセントが強く、確実に伝わらないことがある」という悩みを持ち、週1回のzoom発音レッスンを受講されています。
01脳は「慣れた発音」を固定化する
Nさんのような状況には、脳のメカニズムが深く関わっています。
私たちは長年、日本語の音で脳内の「発音回路」を作り上げてきました。同じ動作を繰り返すほど、脳はその回路を強化し、より少ないエネルギーで処理できるよう自動化していきます。これはとても合理的なしくみです。
ただし、一度固定化された回路を「書き換える」には時間がかかります。
新しい発音を習得するとは、古い回路を消すのではなく、新しい回路を少しずつ上書きしていく作業。だからこそ、継続的な練習が必要なのです。
02Nさんの課題:口の形より「息の量」
Nさんの場合、f・v・th・s などの子音に課題があります。口や舌のポジションは頭でわかっていても、実際に発音すると「なんか違う」となる。
英語は、日本語の何倍もの息を使う言語です。
それを体で覚えるまでには、時間と反復が必要です。
これは知識の問題ではなく、身体感覚の問題。頭でわかっていても、筋肉と呼吸がついてくるまでには練習が必要——スポーツや楽器と全く同じ話です。
03「発音まで意識できない」のはなぜ?
ここで大切なことをひとつ。脳は、同時に処理できる情報量に限りがあります。
研究によれば、ワーキングメモリが一度に保持・処理できる情報はごく限られています。第2言語で話すとき、脳はこれだけのことを同時にこなしています。
英語で話すとき、脳が同時に処理していること
🔄何を言うか考える
📖英語の語彙から
適切な単語を選ぶ
🔧文法・時制・
冠詞を整える
🧠日本語への
翻訳を抑制する
👂相手の反応を
聞きながら修正する
🔊さらに発音まで
意識する…?
※認知負荷理論では、ワーキングメモリが扱える情報量は同時に3〜4項目程度とされています
これだけのことを一度に処理しながら、さらに発音まで気を配るのは、脳への相当な負担です。発音が後回しになるのは、能力の問題ではありません。脳の処理容量の問題なのです。
04では、どうすればいいのか
答えはシンプルです。「発音だけ」に集中する練習の時間をつくること。
日常会話の場では処理が多すぎて発音まで意識できません。だからこそ、発音以外の負担をゼロにした練習の時間を別に設ける。これが最も確実な方法です。
1意識してやる
まず「正しい音」を意識的に出す練習から。ゆっくりでいい、一音ずつでいい。脳に新しい音のデータを入力していくイメージで。
2反復して回路をつくる
繰り返すことで、脳に新しい「発音回路」が形成されていく。第二言語習得研究ではこれを「自動化」と呼びます。
3無意識にできるようになる
ここまでくれば、会話中でも自然に正しい音が出る。他の処理をしながらでも発音が乱れなくなります。
Nさんは今、ステップ2から3への移行期。少しずつ、確実に、脳の回路が書き換わっている段階です。
05練習すれば、誰でも変わる
「大人になってから発音は直らない」とよく言われますが、それは正確ではありません。脳には可塑性(かそせい)——変化し続ける力があります。新しい経験や繰り返しの練習を通じて、脳は何歳からでも回路を再構築できることが、神経科学の研究からも明らかになっています。
重要なのは「正しい方法で、継続すること」。
間違った発音をそのまま繰り返すより、最初に正しい音を丁寧に習得する方が、結果的にずっと早く上達します。発音は、裏切りません。
「発音なんて、通じればいい」という考え方もあります。でも、一発で確実に伝わる発音は、あなたの英語全体への自信につながります。
まずは「発音だけ」に集中できる場所をつくること。それが、遠回りのようで、一番の近道です。


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