発音コーチのひとりごと

マクドナルドが聞き取れないのはなぜ?
日本語と英語、母音の根本的な違い

先日、長年インターナショナルスクールで校長を務めた友人とランチをしました。退職後の今は、シニア向けに英語を教えているそうです。その席で、こんな話になりました。

「読み書きはそこそこできるのに、簡単な会話になると途端にわからなくなる人がいるんだよね。”McDonald’s” すら聞き取れなくて」

「なんで知ってる単語なのに聞こえないんだろう?」と首をかしげる友人に、私は答えました。「それ、母音が違うからなんです」と。

日本語の母音は「あ・い・う・え・お」の5つ。英語の母音は音声学的に最低でも15〜16種類あります。しかも、それらは日本語の5母音とは別物です。

たとえば “McDonald’s” の最初の母音は、日本語の「ア」より口を大きく横に開いた音(/æ/)です。私たちの耳は長年、日本語の5つの母音に最適化されています。英語の音が入ってきても、脳が「いちばん近い日本語の母音」に自動変換してしまう。これを音韻論では「母語干渉」と呼びます。

日本語の発声

喉を閉めて、口先で作る音。声道が短く、音程が上がりやすい。話し声のピッチは比較的高め

英語の発声

喉を開いて、胸から息を流す音。声道が長くなり、響きが豊かになる。話し声のピッチは日本語より低め

実際、同じ人が日本語と英語を話すと、英語のほうが声が低くなることが多い。これは偶然ではなく、喉頭(のど)の使い方の違いが原因です。喉を閉めると声帯の振動数が上がり音程が上がる。開けると下がる。これは音響生理学的に説明できることです。

そんな話をしていたら、友人が「実は逆も面白いよ」と教えてくれました。日本に長く暮らす彼が日本語を話すとき、意識していることがあるというのです。

友人(元校長・英語ネイティブ)の話

「カタカナ語を話すとき、英語式のアクセントをつけると通じないから、わざとすべての音節を同じ長さで平らに発音するようにしている。しかも、一つひとつの母音をちゃんと意識して出す。そうしないと日本人に聞き取ってもらえないんだよね」

これは非常に本質を突いた観察です。英語では単語ごとに強く読む音節(ストレス)があり、他の音節は弱く短くなります。一方、日本語はモーラという均等な拍で成り立っていて、基本的にすべての音節が同じ重さを持つ

英語ネイティブが日本語を学ぶとき、最初につまずくのが「アクセントをなくすこと」と「すべての母音をきちんと発音すること」だと言われています。それは、ネイティブスピーカーにとっても意識しなければできない、相当の訓練が必要な切り替えなのです。

裏を返せば、私たち日本人が英語を話すとき・聞くときも、同じ「切り替え」が必要です。母音の種類を増やし、ストレスのある音節に意識を向ける。この二つが身につくだけで、英語の聞こえ方は大きく変わります。

「母音」と「ストレス」は、英語発音の核心です。単語を覚える前に、まず音の設計図を変えること。それが、英語が「聞こえる耳」をつくる一番の近道だと、私は確信しています。

英語の聞き取りに悩んでいる方は、まず「声の出し方」と「どこにストレスを置くか」を見直してみてください。知識より先に、身体の使い方が変わると、世界が変わります。

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